はじめに:片付けられない家と、積み重なる気持ち
在宅介護をしていると、多くの家族が直面するのが 「家の中がどんどん物でいっぱいになる」 という現実です。
「もう使ってない布団が押し入れにぎっしり」「紙袋や空き箱を捨てずにため込む」「いつか使うかも、と残してある家電」…。
介護が始まる前からの“親の持ち物”に加えて、介護用品や福祉用具、訪問介護で使う道具などが次々に増えていきます。
頭では「片付けなきゃ」とわかっていても、実際には簡単に捨てられない。
「勝手に処分して怒られたらどうしよう」「親の思い出まで捨ててしまう気がする」…。
そんな葛藤を抱える家族は少なくありません。
この記事では、介護と片付け・生前整理のはざまで揺れる気持ち に寄り添いながら、少しでも気持ちと暮らしを軽くする工夫をお伝えします。
親の「捨てられない」には理由がある
思い出が詰まった物
親世代にとっては、ひとつひとつの物に 「人生の思い出」 が詰まっています。
古い服や写真、子どもが書いた絵や賞状、使い込んだ茶碗。家族から見れば「もう不要」と思えるものでも、本人にとっては人生の一部なのです。
戦後世代の「もったいない精神」
特に戦後を生き抜いた世代には、物を簡単に捨てられない背景があります。
「いつか使えるかも」「もったいない」という感覚は、私たちが想像する以上に根強く、捨てること自体が不安を呼び起こします。
介護が始まると「物を通じて安心する」
介護が必要になると、身体や生活の自由が減るため、親は 物を所有することで安心を得る こともあります。
「これは私の物だ」という感覚が、自分らしさをつなぎ止める支えになることもあるのです。
家族が片付けに直面するときの葛藤
在宅介護をする中で、家族の頭を悩ませるのは「この家、どう片付ければいいの?」という問題です。
- 物が多すぎて掃除ができない
- 車椅子やベッドのスペースを作るために物を減らしたい
- 使わない物のせいで転倒リスクが増している
こうした現実的な困りごとがある一方で、気持ちの面ではこんな葛藤が生まれます。
- 「勝手に捨てたら親に恨まれるのでは」
- 「思い出まで切り捨てるようで心苦しい」
- 「捨てたい気持ちと残したい気持ちが自分の中でぶつかる」
介護をしている家族自身も、親の物に“心の整理”が追いつかない 状態になりやすいのです。
無理なく進める「片付け」のステップ
1. いきなり全部片付けようとしない
「断捨離しよう!」と気合を入れても、親が反発したり、途中で自分が疲れてしまったりすることが多いです。
まずは 「安全に生活するために必要な範囲」 にしぼって片付けましょう。
2. 小さな場所から始める
押し入れや物置からではなく、通路や玄関、ベッド周りなど、毎日の生活に直結する場所 から始めるのがおすすめです。
「動きやすくなった」「つまずかなくなった」と実感できれば、次の片付けも進めやすくなります。
3. 「残す理由」を一緒に考える
「これはまだ必要だから残す」と親が言うとき、その理由を聞いてみましょう。
「誰かに見せたい」「思い出を忘れたくない」など、物の裏にある本当の気持ち を知ると、無理に捨てなくても別の工夫が見つかることもあります。
4. 写真に残す
どうしても捨てられない思い出の品は、写真に撮ってデータで残す のもひとつの方法です。
「物としては手放すけど、思い出は消えない」と実感できると、心の負担が減ります。
5. 第三者に入ってもらう
家族だけでは感情がこじれることもあります。そんなときは、片付けサービスやケアマネジャー に相談してみましょう。
第三者の存在は、「これは安全のために必要なんです」と客観的に説明してくれる役割を果たします。
エピソード:母の古い食器棚を片付けるまで
70代の母を在宅で介護しているAさん。
母は昔から「物を捨てない人」で、特に食器棚には古い茶碗や湯のみがぎっしり。
Aさんは介護ベッドを置くためにスペースを作りたかったのですが、「全部思い出だから捨てないで」と母は猛反対。
悩んだ末にAさんは、お気に入りの茶碗だけを残して写真に撮り、アルバムにまとめる ことを提案。
母は最初こそ渋りましたが、「これなら忘れない」と納得してくれ、食器棚を整理することができました。
Aさんは振り返って言います。
「片付けって、ただ物を減らすんじゃなくて、気持ちをどう残すかの作業なんだと思いました」
生前整理を「今すぐやらなきゃ」と思わなくていい
「生前整理」と聞くと、親が元気なうちに全部片付けなきゃ…と焦る方もいます。
でも実際には、“今必要な暮らしを整えること”が優先 です。
- 本人の気持ちを尊重する
- 安全に生活できる環境を作る
- 家族が無理なく関われる範囲で続ける
この3つを意識するだけで十分です。
「完璧に片付けなくてもいい」「残していい物もある」と思えるだけで、心がぐっと軽くなるはずです。
まとめ:片付けは「親の人生に触れる時間」
在宅介護で直面する片付け問題は、ただ家をきれいにすること以上の意味を持ちます。
それは、親の人生や思い出に寄り添いながら、これからの暮らしを一緒に作る時間 なのです。
「全部片付けなくてもいい」「捨てられない気持ちを尊重してもいい」
そう思えると、片付けの重荷が少し軽くなるはずです。
焦らず、無理せず、家族のペースで取り組んでいきましょう。



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