
この日本国において、誰しもが必要なときに、どんな人であっても介護が受けられるのは当然の権利とされています。一定の年齢を超えているか特定の疾病があり生活に支障がある場合には介護保険、それ以外は障がい者支援などの社会保障を受けられる仕組みがあります。
さて、これらの社会保障は受ける権利が誰しもにありますが、「受けない」選択をするのも自由です。富裕層の中にはこの公的サービスを使わずに専属の看護師やお手伝いさんを雇ったり、高級老人ホームと呼ばれる中でもさらに飛びぬけたレベルの一流ホテルも真っ青なゴージャス施設に入居することもあります。
有体に言えば、「金さえあればなんでもあり」なのです。大なり小なり欲のある人間は札束で頬を叩かれれば喜んで尻尾を振ってしまうのです。私だって大金持ちの要介護者に札束を鼻先にぶら下げられたら、謹んですべてのスキルを捧げる自信があります。
では反対に、介護を受けたくても受けられない人、すなわち
「金のない人間」である貧困層と呼ばれる人たちはどうするのでしょう?
介護という社会保障は受ける権利が必ずありますが、受けなくてもいい権利も同時に有します。あくまで権利であって義務ではないのです。
要は詭弁に近いのですが、困っていたとしても適切な支援の手が入るとは限らない、という矛盾を秘めています。
この「貧困層の介護」について実際に現場で見聞きしたことや体験したことをお伝えしていくわけですが、かなりボリュームが出てしまったため数パートに分けてシリーズとして公開しています。
今回はシリーズ4本目、ドヤ街で活動するヘルパーのお話です。
\前回のお話はこちらから/
\シリーズ1本目はこちらから/
ドヤ街の現在
ドヤ街についてはこちら↓で少し触れています。
簡易宿泊所が立ち並ぶ街がいわゆる「ドヤ街」と言われるエリアがあります。本来は日雇い労働者の宿で良くも悪くも活気のある街でしたが、現在は生活保護受給者や帰る家のない高齢者や施設入居できる金銭のない高齢者が生活する場に変貌しています。
なぜ生活保護受給者が「宿泊所」にいるのかはこちら↓の記事でお話した通りです。
比較的若いホームレスはこの簡易宿泊所以外でもネットカフェやゲストハウスなど様々な生活形態を選択することができ、近年では日雇い労働でも多様な働き口や働き方があり、スマホひとつで仕事が探せる世の中ですからドヤ街で職業あっせん業者の訪問を待つ必要もありません。そのため建物や設備も老朽化し高齢者だらけで独特の雰囲気を持つドヤには寄り付く理由がないようです。
その結果、簡易宿泊所はより一層高齢者だらけになっていき、今や「簡易老人ホーム」と言っても過言ではない状況になっています。
簡易老人ホーム
海外旅行者向けの格安宿として改装できる資金もなく、住所不定の若者も来ない以上は、簡易宿泊所を運営している側も現在利用している高齢者と一蓮托生ですので住民票の置き場にすることも認めていますし、そこで介護サービスを受けることも受容しています。
簡易宿泊所管理人の方とお話しする機会があり、いわく「今いる人たちがいる限りは追い出すわけにもいかないから続けるけど、いなくなったらもう廃業する」と仰っていました。本来であれば褒められた制度運用ではありませんが社会保障費の捻出にあえぐ行政としても認めざるを得ませんし、そもそも近い将来破綻するモデルであるからこその延命措置とも言えます。
さてそんな「簡易老人ホーム」ですが、施設ではありませんのでそこで介護をするのは訪問介護員である「ヘルパー」です。
寝たきり状態の人はここにいることが不可能ですので、そうなる前に病院送りもしくは施設入居となります。したがって身体介護はほとんどなく、ヘルパー業務の大半が食料品や必需品の購入で、後は洗濯掃除などの環境整備です。簡易宿泊所には共用のキッチンがありますが、余った食材の保存や調味料のことを考えるとあまり現実的ではないため調理はほとんど行いません。
ドヤ街担当
かなり特殊な状況ですし、調理などのスキルはほぼ必要ないので男性ヘルパーを優先して派遣します。利用者はほとんどが男性であることと、高齢者だらけになったと言っても決して治安が良い場所ではないため、女性ヘルパーはなるべく避けるようにしています。
中には「ドヤ街専門」と呼ばれドヤ街の訪問に特化した事業所もありますし、それ以外の事業所であっても利用者は軒並み曲者ぞろいですので、ケアマネやヘルパーも同じようにドヤ街担当と呼ばれる手練れの者に担当させることが多いです。
女性でドヤ街を訪問するケアマネやヘルパーもいますが、継続して訪問できるタイプは多少のセクハラなんぞは笑い飛ばし、簡易宿泊所の独特の雰囲気すら「楽しかった」と語るような剛の者です。
知人の女性介護員が知らずにドヤ街専門事業所に入職してしまい、彼女は普通の年若い女性でどちらかといえば気弱なタイプであったため3カ月ともたず退職してしまいました。それだけ特殊で人を選ぶ環境であることは間違いありません。
え、私?
私は「ドヤ街担当」でしたね。
危険はないの?
警察沙汰になるようなことはそうありませんが、それでも「無い」とは言えません。実際にどんなことがあるかというと、
盗難
中には手癖の悪い人がいますので、身の回りのものは絶対に持ち歩きます。持ち込む現金は最低限にし、時計などの装飾品はつけていきません。ドヤ街を訪問する人間はそのあたりを理解して業務に当たります。ちなみに、乗ってきた自転車を盗まれたヘルパーがいるそうです。
セクハラ
襲い掛かってくることはそうありませんが、下ネタを話してきたり触ってくることもたまにあります。利用者本人もそうですが、他の部屋の住人が「お~ネーチャン俺の世話もしてくれよ~」とニヤニヤ話しかけてくることもあります。
喧嘩
利用者vsヘルパーではなく、他の住人同士が喧嘩していたり表でもめ事が発生していることが時折あります。ごくごく稀に反社の方がお仕事をしている時もあるため絶対に関わってはいけません。目を合わせず聞こえないふりをしてスッと通り抜けるのがポイントです。
なんらかの中毒者がたくさん
アルコールやギャンブルの依存症と思しき人はたくさんいます。生活保護費が出たらパチンコや競馬であっという間に使い切って食費まで使い果たしてしまう人もいます。いつ見ても酒臭い人なんて珍しくもありません。もうひとつ有名で一番関わりたくない依存症もありますが・・・それはご想像通りだと思います。
脅迫?
犯罪自慢やナントカ組のナントカさんを知っている、だから俺の言うことを聞かないと後が怖いぞ!といった趣旨の発言もよく聞かれます。本当か嘘かは定かではありませんが、まあ真に受けないで聞き流しておけばOKです。
精神疾患?
いつも何かブツブツ言っていたり、常に怒っていたり、感情のコントロールが難しかったり、妄想を楽しそうにずっと話していたり・・・
中には認知症の症状が出ている方もいたとは思うし、何の精神疾患なのかは定かではありません。
一般人の方からしてみれば一生関わり合いになりたくはないでしょうが、この人たちが介護サービスを必要としている以上は社会保障の一端を担う訪問介護員としてそのサービスを提供しなければなりません。
向き不向きは確実にあるため誰でもできるとは言えませんが、少なくともそれを担う人材が居なければ社会の仕組みが破綻しますし、どんな人であれ生きている人間なので捨て置くことも不可能なのです。
これは”日本”で起きている本当の話
一応先進国と呼ばれる日本にあって、ここまで極端な貧困はないだろうと思われる方もいるでしょう。しかし残念ながら極端な貧困者、介護を受けることができない貧困者は確実に存在しています。
そこから人間らしい暮らしに戻れた人、自ら戻らないことを選択した人、戻れなかった人、さまざまなケースに出会いました。ハッピーエンドもバッドエンドもどちらも経験してしまいました。
崩壊しかかっている今の世界に一石を投じる、とまでの壮大なことは言いませんが、いつか自分や周りの人がそうならないとも限りません。解決手段の話をし始めると政治の話になってしまうため、基本的には触れずにあくまで実態と少しの持論で収めていこうと思います。
ただ「日本のどこかにこういう環境、人間がいるのだ」と記憶に残ればと思いこのあとも書き進めていくため引き続きお読みいただけるとうれしいです。



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